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東京高等裁判所 昭和33年(う)421号 判決

控訴人 弁護人 中込陞尚

被告人 山下幸雄 外一名

検察官 大津広吉

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は弁護人中込陞尚作成名義の控訴趣意書記載のとおりであるから、これをここに引用して、これに対し次のとおり判断する。

論旨一、

原判決引用の証拠殊に被告人両名の検察官に対する各供述調書の記載によれば、原判示の如く被告人両名は共謀して、一般商業用として販売する外国製冷房機合計一六台を米国軍軍納品として輸入するもののように装い、神戸税関に関係書類を提出し、右の不正行為により免税輸入し、これに対する関税及び物品税を免れたものである事実を十分肯認しうるのであつて、本件記録を仔細に検討しても所論事実を認めて原審右認定を覆すには足らない。原判決には所論のような事実誤認は存しない。

論旨は理由がない。

論旨二、三、

原判決の判示によれば、被告人等に対する追徴は関税法第一一〇条の不正の行為により関税を免れた罪の犯罪貨物であつて、没収することのできない冷房機一二台分につき、同法第一一八条第一項本文、第二項に則り、その犯罪が行われたときの価格に相当する金額として原判示金額が科せられたものであり、又没収は領置にかかる前同様の犯罪貨物たる冷房機四台を同法第一一八条第一項本文によつて没収したものであることは明白であるところ、原判決は被告人等の本件行為を所論の如く被告人等が勤務するアメリカ冷房株式会社の業務として為したものと認めているのであつて本件冷房機が同会社の所有に属することも原判決に徴して明白である。

ところで法人の代表者、代理人或は使用人等がその法人の業務に関し、詐偽その他の不正の行為によつて関税を免れたときは、関税法第一一七条によつて、その行為者のみならず、その法人に対しても該当法条(本件においては関税法第一一〇条)の罰金刑を科しうるものであり関税法第一一八条によれば犯罪に係る貨物のすべてを没収の対象とし、ただ貨物が犯人以外の善意者の所有に係る場合及び善意の第三者が已に転得したものは、同法第一一八条第一項第一号、第二号により没収の対象から除かれるにすぎないのである。そして同条に犯人とは行為者のみならず、いわゆる両罰規定により処罰される法人をも包含するものと解するのを相当とする。従つて原判決が被告人等の所有に属していなくても、被告人等の不正行為によつて免税輸入され犯人たるアメリカ冷房株式会社の所有に属した犯罪貨物たる本件冷房機四台を没収し、没収することのできなかつた同じく犯罪貨物たる冷房機一二台分の価格に相当する金額の追徴を科したのは正当であり、原判決には所論の如き法令の適用を誤つた違法の存するものとは認められない。

次に本件冷房機の輸入の主体及び納税義務者は右会社であり、右会社が起訴されていないことは所論のとおりである。そして所論は右会社は本件摘発後冷房機一六台分の関税及び物品税を納付した旨主張するけれども原審証人唯野武夫の供述によれば右会社は罰金に相当する金額を税関に納付すべき旨の通告をうけて、これを納付したものであつて、この履行によつて、起訴されなかつたにすぎず、所論の如く冷房機一六台分の関税及び物品税を納付したものとは到底認め難いのであつて、このことは当審において証拠として取り調べた右会社に対する通告処分書に徴しても明白である。従つて、右関税及び物品税を納付したから、被告人等に追徴を科することは二重に徴税するのと同じ結果となり不当であるとの所論は、その前提を欠き失当たるを免れない。論旨は何れも理由がない。

よつて、本件各控訴は理由がないから、刑事訴訟法第三九六条に則り、これらを棄却すべきものとして、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 山本謹吾 判事 渡辺好人 判事 石井文治)

弁護人中込陞尚の控訴趣意

一、本件には重大な事実の誤認がある。

原判決は被告人等に対する犯罪事実として「被告人山下幸雄は東京都港区赤坂表町一丁目一番地において冷房機等の輸入取付等の業務を営むアメリカ冷房株式会社の専務取締役、被告人遠藤一郎は同会社の取締役営業部長をしていたものであるが、被告人両名共謀の上右会社のため昭和三一年七月一日米国から米国船プレジデントクリーブランド号によつて横浜港に到着した外国製冷房機を一般商業用として転売する意図を秘し軍納品として輸入するものの如く偽装して通関する不正行為により之に対する関税及び物品税を逋脱せんことを企て、その頃神戸税関に対し別表記載のアメリカ製冷房機一六台を横田米空軍基地内トツプスリークラブに納入するものの如く装い、かねて用意の輸入申告書類を提出して之を免税輸入し以て右不正行為により之に対する関税合計六四万九一三四円及び物品税合計四九万一八三〇円を免れたものである。」との事実を認定したものであるが右は証拠上誤りの認定であると信ずる。即ち被告人等は第一回公判期日において公訴事実に対する陳述として「一、本物件は軍に納入の上正規の払下手続をした上で一般商業用にまわす考えであつた。二、本件物件はかような訳で軍納の手続をすませたのである。払下は起訴状記載のトツプスリークラブの工事が完了次第一括此れを受ける考えでいた。処が工事が完了せず他方一般商業用に対し早急に振向ける事情が発生した為、やむなく、正規の手続は後でも良いと考え、一般商業用にまわしたのである。ところが正規の手続をとる前に検挙され、之が不可能となつた。従つて当初から関税物品税を逋脱する意思はなかつた。以上の外の事実は概ね間違いない。」と申立ており、その後の公判に於ける供述も之につきるのであります。従つて当初より関税逋脱の目的のない事は勿論、その冷房機等を輸入するにあたつて詐偽又は不正の方法を取つたものでもありません。輸入するにあたつてはあくまで正規の輸入手続をとつており、唯、国内に於て米駐留軍より払下を受け関税物品税等を納入の上、之を一般商業用に振向けるべき予定でいたところ時期的に間に合わずその手続を遅延したため本件の如く検挙される結果となつたものである。少しも悪意は存しなかつたのであります。従つて右のように手続をとらないで処分したときに犯意の発現を認定すべきであり右は関税法第百十二条に規定する違反行為とみられるなら格別、同法第百十条第一号に問うべきものではない。

二、原判決には法令の適用を誤つた違法がある。

本件の違反行為の目的物件は原判決書に記載してあるように、アメリカ製冷房機十六台であるが右のうち原判決主文記載の如く没収されたうち四台を除き、その他の価額金五百七十九万四千八百九十円につき、之を被告人両名より追徴している。然し本件取引は一件記録により明白なように被告人等が勤務していたアメリカ冷房株式会社の業務に関し之を行つたものである。たとえ被告人等が本件違法行為に関与したりとしても被告人個人より之を追徴することは、法律の精神より見て妥当でない。しかも右アメリカ冷房株式会社は本件十六台につき関税並びに物品税を納付しているのである。したがつて財政法である関税法等の目的は右のアメリカ冷房株式会社の諸税金の納付により十分その目的を達しているのである。しかるに被告人等に重ねて追徴を課するのは二重に徴税をするのと同じ結果になり不当であると言わねばならない。

三、本件につき前記四台につき没収を命じたのは違法である。

本件冷房機四台は取引主体であるアメリカ冷房株式会社の所有に属したものである。本件において取引主体であるアメリカ冷房株式会社が被告人として起訴されているならば同会社より之を没収すべき筋合である。しかるに、一会社の職務執行者たる被告人両名に之を命じたのは違法である。

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